『Breath』レビュー

プラッチック川本氏による長谷川健一『Breath』全曲レビュー

1.きらいなあなたと

長谷川健一の音源を初めて聴いたのは、実家のカセットラジカセだった。
今、彼の新アルバム『Breath』をパソコンからWi-Fiを飛ばしてBOSEのスピーカーで聴いている。

現在ではシャッフル機能等でアルバム全体を1曲目から通して聴く事は少なくなったが、この曲は正にアルバムの1曲目にふさわしい。
齢を重ねれば重ねるほど、「きらいなあなたと」わかり合う事は難しくなるが長谷川の声で聴くと出来なくもない様な気がしてくる。
(このテンポをこのテンションで鳴らすのは至難の業だがハセケンは難なく聴かせる。)

2.誕生日

この曲からバンド編成。
長谷川の活動を初期から知る者としては、初期の曲との決定的な違いは歌詞の世界だ。
長谷川の根本、魂は変わらないが歌詞がより普遍的になっている。

3.にほんのひと

「Breath」全体に渡って感じるのがアコギの異常な音の良さだが、この曲ではアコギ、ベース、ドラムのシンプルかつ最小限の編成で長谷川の歌を際立たせている。
サビのブルースハープが効果的。
ジャケット裏の表記「I」も素晴らしい。

4.うたうは喜び

この曲を聴いていると人類で初めて「うた」を歌った人物を描いた漫画を思い出した。
その中で「人類が発明した最大のものとは?」の問いに「歌だ!」と見開きで答える場面があるのだが、この曲の最後の転調部分は歌詞がなくても「うた」として響いている。
長谷川弾き語り。

(漫画は「天才柳沢教授の生活」の作者、山下和美の短編集「不思議な少年」に収められている「THE MAN」という回。)

5.夜の風景

松原明音によるコルネットが印象的なナンバー。
どこかの街で夜な夜な繰り広げられる演奏会が思い浮かぶ。
個人的には京都丸太町ネガポジを想った。

6.逆光

長谷川による弾き語り。
大事な記憶を写真で見て振り返っている様な眩しい小作品。

7.君のお父さん
「Breath」には4曲の弾き語りが収録されているがどの曲も趣が異なっており、サビでは長谷川のボーカルをダブルトラックで楽しめる。
生で聴いても倍音を感じさせるハセケンの声をダブルトラックを聴くと格別である。

8.春夏秋冬

2000年前後から存在する長谷川初期の名曲。
この曲を初めて聴いたのはカセットテープの「酩酊通信」だったか?
当時、イントロのメロディーはハセケンが吹くピアニカでドラムは打ち込みだった。

転調終わりの「久方ぶりの貴方は小さな〜」の歌詞のダイナミズムには名曲のみが持つ事を許されるマジックがある。

9.一回きりの歌

「Breath」ハイライトナンバー。
8曲目「春夏秋冬」を15年前に書いた長谷川健一が15年を経て(すごく長い時間だった)今も名曲を書いている事に猛烈に感動しており、独断で勝手に「Breath」のハイライトナンバーにさせていただいた。

「生きてる限りはひとりになれない
こわがることはない」

の歌詞は僕の「きらいなあなた」にも送りたい。

10.誰がため

ラストナンバー。
「Breath」は優しさに満ちたアルバムだが、そこに至るまでに長谷川が体験した事を次の世代に伝えているかの様な曲。
ミュージックビデオも素晴らしい。

というわけでプラッチック川本氏より、以上のレビューを送ってもらいました。彼は長谷川健一の音源を最初から最新まで聴いている数少ない人物のひとりです。今回のCDの特典として、彼が10代の頃に書いた歌を3曲カバーさせてもらいました。個人的にとても思い入れの深い特典音源です。好きな歌は、何年たっても忘れないものだなぁとつくづく思いました。
僕も彼のバンドの音源を初めて聴いたのはカセットテープでした。もう充分に僕もオッサンなのでカセットテープで若い子たちが音源をリリースする気持ちについて、あぁ新鮮なのかなぁという程度にしか理解ができてないのです。レコード、カセットテープ、MD、CDと(あとはデータでしょうか?)変遷する中で何にでも言えることですが便利になる代わりに失ったものは割とあるんだと思います。僕はレコード世代ではないので新鮮さもあり今年7インチをリリースしました。純粋にモノとして手にした時の嬉しさたるや。ライナーノーツやクレジットも隅々まで読むタチです。今の子はそういうところに執着あるのかなぁ。

川本氏は「一回きりの歌」のところで15年を経て名曲を書き続けていることに感動してくれている、ということなのですが、逆に僕から言わせると15年前に書いた歌を名曲と感じてくれた人が15年後も同じ人間が書いた違う歌を名曲と感じていることに感動しています。それは、お互い歳を重ね会わなかった時間もそれこそその間決して短くなかった筈なのにこんな今さらもお互い変わらない何かを持ち続けた結果改めて再会できたということです。
変わったところ、変わらなかったところに共通点があるのかも。
やめなければ、死ななければ、これから沢山沢山再会するでしょう。来年も新しいことをやってみたいなぁ。
そういえば年始に初めてDJします。ちょっと色々と考えて用意したいと思っています。クラブメトロで会いましょう。