KUDANZ『血の轍』

昨年2月、KUDANZ玄くんからメールが届いた。
「腰のことで入院した時に書いた歌詞で、ハセケンさんが歌うイメージが湧いた」ので曲をつけてもらえないかという内容だった。メールには「最後の江ノ島」の今とは少しちがう歌詞が添えられていた。なぜ江ノ島なのかといったいきさつを聞いて、メロディをつけていった。ワンフレーズつけてはスマホのボイスメモに録音してメールした。繰り返し繰り返しメールのやり取りは続き、メロディを受けて歌詞は変化し、その歌詞を受けてまたメロディを練った。子どもの頃ラジオで聴いた、KANと槇原敬之のリレー曲作りを思い出していた(歌詞とメロディの分業ではなかったと思うけど)。
いまメールを見返すと、最初の歌詞をもらったのが2015年2月22日、ひとまずの完成テイクをメールしたのが2015年5月13日だ。結構たくさんのメールをやり取りしたけれど、僕に関しては全然ストレスがなかった。玄くん本人に確かめたことはないけれど、曲作りの進め方や作ろうとしているものが似ている部分があったのかもしれない。
お互いにとって、共同作業で曲をつくるのはおそらくイレギュラーなことだったと思う。本来なら意見がまとまらなかったりどちらかが我慢をして進む可能性があった作業に関して、僕についてはとても楽しかったという感想しかない。
玄くんにとっては楽しさ以外にもいろんなプレッシャーがあった筈で、その点で言うと僕は好きにメロディを書けばよかった。

結果、歌うのが難しい曲ができた。
サビの出だしとか、自分ではちょっとお手上げなくらいのメロディになった。作ってから、江ノ島だけにメロディにサザンっぽさもあるような気がした。

自分でも何度もライブで歌っている。
歌うたびに、京都以外に住んだことがないにもかかわらず、歌詞に「江ノ島」が出てくる歌を堂々と歌える喜びを感じている。
そして自分で一から全部作った歌とはまた違う風が吹いている。

ネットで、KUDANZ復活みたいなニュースが流れた時に、「いい曲かけてます」とコメントが出たのをみた。これは余程の自信がないと言えないなと思った。
僕はKUDANZの「蕾」という歌が大好きで、何度もライブで勝手にカバーしている。
あんな美しい曲を書く人が「いい曲かけてる」なんて、これは相当いい曲が溜まってるんだろうなと思った。

昨年12月、蔵王でレコーディングするからということで誘われて行ってきた。そこで何曲か聴いた新曲はやはり凄かった。講堂みたいな場所にグランドピアノや機材を持ち込んでおこなったレコーディング。ブースもなにも分かれてなかったので自分のパートでなければ録音中は物音を立てないようにじっとする必要があった。じっと傍でボーカル録りを聴きながら、僕は感動していた。本人はテイクに納得いってなかった様子だったけれど、何度も繰り返される「触れたいよ」を聴くたびに心が揺さぶられていた。

レコーディングの際、特にボーカルはあまりにテイクを繰り返すと集中力の問題や、また肉体が疲労していくだけなので、せいぜい2〜3テイクまでが勝負だと思う。器用なやり方だと、3テイク録ったものからよい部分をつなぎ合わせることもできる。
でも彼は継ぎ接ぎで録音することも良いと思ってなかったんじゃないだろうか。
苛立っている瞬間もあった。
便利なやり方がたくさんある中で、歌い通すことに拘ることは決して間違いではない。ライブでは結局歌い通すことが必要なので、それを常日頃からできるように心がけることはむしろ正しい。
ただ録音となると経費とのせめぎ合いなので、そこは状況に応じた判断が必要となってくるのだけれど。
合宿はあっという間に終了して僕は京都に戻った。

今年の9月、「最後の江ノ島」PV解禁前日、玄くんから突然電話がかかってきた。
僕は家の近所のスーパーにいた。
「時間かかったけど、自分のものにできました!」と言ってくれた。
「すげぇな」と思ったし、純粋に嬉しかった。
ドローンを使った美麗なMusic Videoを見るたびに歌いこんだ様子が伺えてハッとする。

今回のように依頼があって(それも友達同士の楽しみみたいな出発点で)曲を作ることは、自分で歌うための楽曲作りのときと姿勢が大きく違う。僕は服は作れないけれど、友達のために服を作るときの気持ちとは、おそらくこんな気分なんじゃないだろうか。自分で着るための服を作るときに悩むアタマと違う部分を使って作業するんじゃないだろうか。
KUDANZの新譜は『血の轍』という。これを見たとき、あぁ、勝負に出たな、と思った。KUDANZを知らないBOB DYLANファンが聴いてビックリして欲しいな。

収録の「死の塔の上で」は一度山形で一緒にライブしたときに聴いた曲だと思う。やさしくて、だらしなくて、さびしげな なんて自分のことかとほとんどのミュージシャンは思うはず。凄い曲だ。
「ロングロングタイムアゴー」はこれまた大きな福音が最後に待っている。
コーラス付けたのが最高に気持ち良かった。

以前、「蕾」が好きで本当によくライブで歌っているねんみたいな話を玄くんにしたときに、「あれハセケンさんが書きそうな曲ですもんね」と言われた。
今回「最後の江ノ島」が、まるで玄くんが作曲したみたいな顔をしてアルバムに収録されているのがとても嬉しい。